市川崑監督の映画「炎上」を観ました。
言わずとしれた、実話をもとにした三島由紀夫の名作「金閣寺」原作の作品です。
古い映画なので音が聞き取れないのが難でしたが、とても面白かった。
原作は大昔に読んだんですが、面白かったこと以外は
きれいさっぱり忘れてしまっており、
映画は大分原作と変えてあるそうなんですが違いが全くわからず。
それどころか基本的な印象はあまり変わりませんでした。
原作の方がもっと濃密というか偏執質な熱さがあったような気はしますが。
ひとりの青年の、悲しみ、怒り、劣等感、無力感、理不尽さ、寂しさを伴う
いくつもの経験がミルフィーユのように積もり重なっていき、彼の自己愛を
防衛的に狂わせてゆくその課程が、市川崑監督のシャープでいて淡々とした
タッチによって見事に描かれています。
孤独とみじめさから目を背けたいがため、自身で自身の心の拠り所を
破壊するに至る主人公の姿は本当に悲しく、それを愚かだと心底笑える人は
幸せだと思わずにいられませんでした。
だからこそ敢えてそこにフォーカスしエンタテイメントに昇華することを、
それができることを、才能と呼ぶのでしょう。
三島由紀夫はかなり自己愛の肥大した人だったようなので、少なからず
国宝を燃やしてしまった実在の青年に自身を重ねたのかもしれません。
小説を読み直そうという気になりました。